株式公開買い付け(かぶしきこうかいかいつけ)とは
株式公開買い付け(かぶしきこうかいかいつけ)は、ある株式会社の経営権の取得などを目的に、株式等の買い取りを希望する者が、「買い付け期間・買い取り株数・価格」を公表して(公告して)、不特定多数の株主から株式市場外で株式を買い集める制度である。
目次
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概要
買収や子会社化などの株式会社の経営権の取得以外では、市場に流通する「自社の株式」(自己株式)を購入するために使われることもある(購入後は、消却または金庫株化)。
なお、あくまで買い付ける側の取得比率によるが、公開買付けの結果として、取引所の定める上場廃止基準に抵触して上場廃止になる場合がある。例えば、東京証券取引所の場合、少数特定株主持ち分比率が90%を超えると上場廃止となる。上場を続けることに、上場維持のためのコストがかかるほか、投資決定について株式を公開していることで制約を受け経営者の自由度が下がる、あるいは買収されるリスクがある、などの問題点が指摘される。また成長力のある会社を完全子会社あるいは社内事業部門に取り込むことで、親会社の企業価値を上げるという考え方もある。MBOなどのための公開買付けでは意図的に上場廃止する場合も多い。
TOB
日本においては公開買付けを略してTOBと言う事が多い。この語源は英語のtakeover bidであるが、英語圏ではTOBという略語はあまり使われない。英字新聞等で正確に書くときはtakeover bidとフルスペルで綴られるが、この言葉には買い付けの申し込みという意味のbidに重点があり、短縮表現としてはtakeoverを省略したbidが用いられることが多い。またtakeover bidというイギリス英語の表現のほかに、アメリカ英語でのtender offerという表現があることに注意が必要である。そのため投資銀行の世界では、takeover bidという言い方よりもtender offer or public tender offerという言い回しの方が通りやすい。
公開買付けの制度
有価証券報告書の提出が義務付けられている株式会社等(証券取引所に上場する株式会社など)の「株券等」[1](エクイティ証券と理解してよい)を発行者以外の者が市場外で一定数以上の「買付け等」(有償の譲受けその他)をする場合などには、原則として公開買付けによらねばならない(金融商品取引法27条の2第1項)。
TOBの制度を支える仕組みが大量保有報告書の提出ルールで、その原則は5%超取得後、あるいは5%取得後1%以上の増減があった場合は、5営業日以内に報告を義務付けるというもの。
なお、市場内で議決権が全体の3分の1以上の株式を取得しても問題とならない、との解釈に基づき、ライブドアが東証の取引開始前の時間外取引でニッポン放送株式の29.5%を取得、グループとして発行済み株式のうち35%を保有するに至った件(2005年2月)や、村上ファンドが市場内・市場外を併用して阪神電気鉄道 株式38%を取得した件(2005年10月)などの反省から、平成17年の証券取引法改正により、市場内取引でも、ToSTNetなど証券取引所の立会外取引(時間外取引)によって、買付け後の株券等所有割合が3分の1を超えるものについては、同じく公開買付によらなければならないこととされた。
なおこのような時間外取引は、そもそも大口取引を時間内に執行すると売買価格に影響が大きいことなどの不都合があるため設けられたもので、大口取引を円滑に執行するため、あるいは大口取引を取引所が確保するための仕掛けだといえる。仮に取引所がこうした取引の場を設けなければ、大口取引は市場外取引に流出してしまう。結果として時間外取引は、市場外取引と同じように相対取引の場として使われることが多い。つまり取引所の立場からは市場内取引だと言わざるを得ないが、その取引の性格は市場外の取引に近いという矛盾した存在であることが、この問題では表面化した。その意味で実態的に違法行為となることを、ライブドアが形式論で違法でないと主張したことが問題視された。
2006年(平成18年)12月13日に施行された政省令によって、3ケ月以内に、市場外で5%超取得し、市場内と合わせて10%超取得し、保有割合が3分の1を超える場合はTOBが義務付けられた。また大量保有報告制度については、従来、証券会社や投資ファンド、投資顧問など機関投資家に対して支配権取得が目的でなく10%以下の取得であれば3ヶ月に1回の報告の義務付けと特例で緩和されていたが、2007年(平成19年)1月1日施行の政省令で、これを改め5%超の取得についての報告義務を2週間ごとに短縮。また、役員の選任・解任など重要提案行為で5%超の取得をするケースについては5営業日以内に短縮した。
TOBが強制されることの趣旨は、経営権の移転に関する情報開示、株主平等の原則、コントロール・プレミアムの平等分配の3つにあるとされる。
実施に際しては、条件の新聞への公告や、財務局への届出の手続きが必要となる。実施中は、この方法以外で当該株を購入することは出来ない。
公開買付けの方法及び公開買付けに関する開示方法等については金融商品取引法第27条の2〜第27条の22の4に、公開買付者等関係者の禁止行為は同法第167条に、それぞれ規定されている。
友好的TOB
買収される会社の経営陣等の賛同を得て実施する企業買収を、友好的買収 friendly takeoverという。この買収の典型が公開買い付けpublic tender offer or takeover bidによるものである。友好的TOB friendly bid or offerでは、経営陣は株主に対して適正な買い付け価格だとして買い付けを受け入れることを勧告する。また買収後、旧経営陣が経営に留まることが多い。MBO マネジメント・バイアウトにおいてもTOBを利用される。友好的TOBでは買い付け価格を競り上げる圧力が十分でないので、買い付け価格の妥当性について株主の側に不満が残りやすい。MBOでは経営陣を含む買い付け側が買収目的会社つまり買収する会社を設立しこれが買収主体となる、経営陣は他方で株の売り手になるので、売り手と買い手の双方の利益を代弁することになるが売り手の利益を十分に代弁しない利益相反行為を犯す可能性が高いと指摘されており、買い付け価格の妥当性がMBOではしばしば問題になる。
敵対的TOB
これに対して、経営陣の賛同を得ずに行われる企業買収は敵対的企業買収 hostile takeoverとよばれ、その場合の株式公開買い付けは、敵対的TOB hostile bid of offerと呼ぶことができる。敵対的TOBでは経営陣は買収対抗策を講ずるとともに、株主に対して買い付け価格が低いとして買い付けに応じないように勧告する。敵対的TOBでは、買い付け価格が引き上げられることがしばしば見られる。しかし買い付け価格が十分高く設定された場合には、経営陣が抵抗を止め買収に応ずる判断をすることもある。
経営陣の買収対抗策としては、白馬の騎士 (white knights)と呼ばれる友好的な企業による合併や新株引受けにより、買収を避けることがある。また、買収する側を逆に買収されようとした側が対抗的に買収する脅しをかけることで、買収を思い留まらせようとする戦法もある。これはパックマン・ディフェンスと呼ばれる。このほか自社の重要資産を他企業に営業譲渡することで買収する側からみた「買い付けする価値」自体を失わしめ買収意欲を削ごうとすることがあるとされる。この重要資産は王冠 crown jewelsと呼ばれる。これを大規模に行うことを焦土作戦と呼ぶ。この作戦は買収防衛策の一つとしてよく知られている。もっともこの作戦について、営業譲渡が適切な価格で行われれば、適正な対価が入るので会社価値は下がらないはずで、また逆に不適切な価格で譲渡を行えば経営者は法律的責任を問われるからそれもできないはずとの指摘がある。敵対的TOBに対する買収対抗策の詳細は、M&Aの項目を参照。
さまざまな買収対抗策はアメリカで発達したが、イギリスでは公開買付制度そのものを厳格に運用する代わりに、買収ターゲットになった企業の経営者に対抗策を取ることなく中立を保つこと(中立義務)を求める考え方が見られる。すなわちイギリスではシティ・コードとして知られる民間自主規制がある。コードでは、議決権で30%以上を取得しようとする者に対して、ほかのすべての株主に対して、買い付けの申し込みをすること(強制申込)、またその対価を現金で支払うことを求めている。買い付ける側は、未取得株式すべてを買い取る現金を用意する必要があり、このことが安易な買収を抑制すると考えられている。
最近の事例
- 日本車輌製造 - 東海旅客鉄道が実施(08/08/15)
- ニッポン放送 - フジテレビジョンが実施(05/01/17)
- 日本技術開発 - 夢真ホールディングスが実施(05/07/20) → 失敗。白馬の騎士として登場したエイトコンサルタントの子会社の傘下に入り、のちに両社は経営統合し、統合新会社のE・Jホールディングスの事業子会社となる。
- オリジン東秀 - ドン・キホーテとイオンが実施(06/01/16)(06/01/31) → 白馬の騎士のイオンに軍配、ドン・キホーテが買い増していた保有株式をイオンに売却 上場廃止(06/07/27)
- ボーダフォン - ソフトバンク 実施(06/04/04) 非上場会社がTOB規制を受けた事例。ボーダフォンは非上場会社(旧:ジェイフォン(J-PHONE))
- 阪神電気鉄道 - 阪急ホールディングスが実施(06/05/30)
- すかいらーく - 野村プリンシパル・ファイナンス、経営陣がMBOとして実施(06/06/09) 上場廃止(06/09/19)
- キリンビバレッジ - 親会社の麒麟麦酒が実施 (06/05/12) → 東証1部上場子会社の完全子会社化の事例。株式交換方式により完全子会社化(06/10/01) 上場廃止(06/08/11)
- 北越製紙 - 王子製紙が実施(06/08/02) → 失敗。三菱商事が筆頭株主、日本製紙グループ本社・大王製紙も上位株主に
- 三菱伸銅 - 三菱マテリアルが実施(06/07/31)
- 筒中プラスチック工業 - 親会社の住友ベークライトがTOBで東証1部上場子会社の完全子会社化目的に実施(06/10/01) → 完全買収完了後、株式交換で完全子会社化(07/03/01) その後合併・解散(07/07/01)
- クラリオン - 日立製作所が実施(06/10/25) 14%出資から1株230円で応募株をすべて買いつけ。63.66%(06/11/30)→ その後、07/01 クラリオンは日立子会社で同業中堅のザナヴィ・インフォマティクスを傘下に入れる
- 住商リース - リース業界再編のため住友商事が実施 (06/10/31) → 成功。07年度中に三井住友銀リースと合併へ
- 明星食品 - 米系のファンド・スティール・パートナーズ・ジャパンが実施(06/10/27)MBOを提案 1株700円→ 全株取得を目指すが応募ゼロ06/11/27。同業者で業界トップでライバルでもある日清食品が白馬の騎士として対抗して実施(06/11/16) 1株870円 上限を設けず06/12/14まで取得。スティールも応募。86.32%取得。結果として上場廃止(07/03/27) 完全子会社に。
- メルシャン - 麒麟麦酒が実施(06/11/17)(筆頭株主で同根でもある味の素もこのTOBに応募)
- サンテレホン - 米・ダルトン・インベストメンツが株式買い増し実施(06/10/19) 1株1100円。出資比率上昇31.4%⇒39.6% MBOを提案 → その後、日本産業パートナーズ(みずほ系)と米・ペインキャピタルの合弁による投資会社が友好的ファンドとして対抗してMBOも兼ねて実施(06/12/21) 07/05上場廃止
脚注
関連書籍
- 東京証券取引所『入門日本の証券市場』東洋経済新報社, 2004
- 福光寛・高橋元『ベーシック証券市場論』同文舘出版, 2004
- 鈴木芳徳『金融・証券論の研究』白桃書房, 2004
- 鈴木芳徳『わかりやすい証券市場論入門』白桃書房, 2004
- 井出正介・高橋文郎『証券分析入門』日本経済新聞社, 2005
- 和仁亮裕ほか「株式公開買付による企業買収と買収防衛策」『月刊資本市場』Aug.2005
- 日本証券経済研究所『詳説現代日本の証券市場』日本証券経済研究所, 2006
- 黒沼悦郎「証券取引法の改正と変わるTOB」『金融』Oct.2006
- 池田唯一「わが国企業開示制度、TOB制度等の新しい姿」『証券レビュー』Jan.2007
関連項目
- M&A
- MBO
- PIPE(パイプ)
- EBO
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