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ケインズ経済学(Keynesian economics)とは

ケインズ経済学(ケインズけいざいがく Keynesian economics)とは、ケインズの「雇用・利子および貨幣の一般理論」(1936)を中心に展開された経済学のこと。

目次

  • 1 概要
  • 2 公共投資との関連
  • 3 ハーベイロードの前提との関係
  • 4 ケインズの階級観[7]
  • 5 自由主義との関係
  • 6 歴史
    • 6.1 新古典派総合
    • 6.2 新古典派総合への批判
    • 6.3 現代のケインジアン
  • 7 参考文献・脚注
  • 8 関連事項
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概要

ケインズ経済学の根幹を成しているのは、有効需要の原理である。この原理は、古典派のセイの法則と相対するもので、「供給量が需要量(投資および消費)によって制約される」というものである。これは、有効需要によって決まる現実のGDPが、古典派が唯一可能とした完全雇用における均衡GDPを下回って均衡する不完全雇用を伴う均衡の可能性を認めたものである[1]。このような原理から、有効需要の政策的なコントロールによって、完全雇用GDPを達成し、『豊富の中の貧困』という逆説を克服することを目的とした総需要管理政策(ケインズ政策)が生まれた。これは「ケインズ革命」といわれている。

ケインズ経済学では、貨幣的な要因が重視されている。このことは、セイの法則の下で実物的な交換を想定とした古典派とは対照的である[2]。不完全雇用の原因について、ケインズの『一般理論』では、「人々が月を欲するために失業が発生する」と言われている。これは、歴史的な時間の流れにおける不確実性の本質的な介在によって、価値保蔵手段としての貨幣に対する過大な需要[3]が発生し、これが不完全雇用をもたらす、とするケインズの洞察を示すものとして知られている[4]。

公共投資との関連

ケインズの生きた時代のイギリスでは、経済の成熟化で、国内での投資機会が希少になり、また自由な資本移動の下で、資本の国外流出を阻止するための高金利政策が、国内投資を圧迫するというジレンマに悩んでいた。そこで政府が主導して資本の流出を防ぎ、投資機会を創出することで、国民経済の充実をはかることを、ケインズは考えていた。

もともと、景気対策として、ケインズは、中央銀行の介入による利子率のコントロール(金融政策)に期待していたが、のちの『一般理論』においては、企業の期待利潤率の変動や流動性選好などの制約で、金融政策が奏効しない可能性を認め、雇用量を制約する生産量の引き上げの方策として、公共投資(財政政策)の有効性を強く主張するようになった[5]。

また、ケインズの提案は、失業手当の代替策としての性格を持っていた(当時の失業率は10%を越える状況にあった)。また過剰生産力の問題を伴わない投資として、住宅投資などが想定されていたが、現実においては、軍事支出によってしか、完全雇用を達成するに足るほどの投資が、政治的に許容されないことを、ケインズ本人は憂えていた[6]。

ハーベイロードの前提との関係

もともと総需要管理政策は、不況時には政府支出の増大・減税・金融緩和などにより有効需要を増やすことにより生産と雇用は拡大するというもので、反面、インフレーションの加速した際には政府支出の削減・増税・金融引締めによる有効需要の削減を推奨するものであった。

しかし現実には好況時の引締めが政治的に不人気な政策となることが明らかとなり、また公共投資が、それを発注する権限を持つ官僚と、それを受注する私企業との間の癒着をもたらし、これらが問題視されるようになった。

これらの想定の背景として、知識階級としての少数の賢人が合理性に基づいて政策判断を下せるというハーベイロードの前提がケインズの思想に生きていたと指摘される。

「現代の民主制の下では、政府は権力の保持・奪回のために、集団的圧力に屈服しやすいものなのだが、ケインズはむしろ、経済政策を立案する一部の聡明な人々は、選挙民や一部集団からの組織的圧力と衝突してでも、必ずや公共の利益のために行動しようとするはずだという歴史的事実に反する前提を、無意識のうちに置いていた」とジェームズ・M・ブキャナンは語っている。

ケインズの階級観[7]

ケインズは、企業者と労働者とからなる活動階級(active-class)と、資金の供給側である投資者(債権者)からなる非活動階級(inactive-class)のニ階級観をもっていた[8]。

インフレーションは金利生活者に損失を、デフレーションは失業によって労働者に損失をもたらすものと見ていた(「貨幣改革論」)が、ことにストックの価値を高めるデフレーションは、活動階級の犠牲の下に、貨幣愛に囚われた非活動階級に利得を得させるものと捉え、これを緩やかなインフレーションよりも問題の多いものと見ていた。

また非活動階級に対しては、当時、投資の流動化によって企業が「投機の渦巻きの中の泡沫」と化していたことを問題とし、また当時のような極端な富の不平等を、不確実性および無知に乗じて[9]獲得された利益によるものとして排斥した上、本人の活動によらない富に対する課税として、相続税の極端な強化を主張しており、総じて「金利生活者の安楽死」という表現に象徴されるように、非活動階級から活動階級への経済上の支配権の交替を求めていた[10]。

自由主義との関係

ケインズは、その『自由放任からの脱却』において、ダーウィンの進化論の影響を受けた、古典派のレッセフェール(自由放任)の思想を退けたことで知られている。適者生存[11]の思想を、もっとも高いところにある木の枝から葉をむしることだけを生存の目的の全てと見て、もっとも首の長いキリンだけを生存させることをベストとするものだとして批判した。また合理的な個人を仮定して見えざる手に全てを委ねることが公共の福祉を高めるとする古典的な自由主義に対しても、当時のニューリベラリズム(社会自由主義)の側から疑問を呈していた。

歴史

新古典派総合

ケインズが展開した経済学は、後にアメリカでサミュエルソンらにより古典派のミクロ理論と総合(新古典派総合)され、戦後の自由経済圏の経済政策基盤となりケネディ政権下での60年代の黄金の時代を実現した。[12]。

新古典派総合への批判

しかし、その後のオイルショックに端を発するスタグフレーション、それに続く1970年代の高インフレ発生などの諸問題の一因としての責任を問われることとなった[13]。とりわけ、原油などの原材料価格の急激な高騰により発生した供給側のコスト増大に対して有効な解決策を提示・実現することができないものとして、反ケインズ経済学からの批判を浴びることになる。

この批判の中から、マネタリストや供給サイドの改善を主張するサプライサイダー、民間による政府の政策の予知を前提としてケインズ的な財政金融政策の無効性を説く合理的期待形成学派などの諸学派が台頭し、「ケインズは死んだ」とまで言われた。これらの反ケインズの立場からは、双子の赤字の課題をあとに残しつつも、安定した金融政策と低インフレをもたらしたとしてレーガノミックスやマネタリストの功績が説かれた。

オイルショック以降、経済は金融政策を軸にした安定成長期へと移行し、積極的な需要管理による高度経済成長時代は終焉した。

現代のケインジアン

戦後のアメリカにおけるサミュエルソンらの新古典派総合(オールド・ケインジアン)は、古典派のミクロ理論を基調として、これにケインズのマクロ理論を折衷することを企てたものであった[14]が、後にその理論的な不整合が明らかとなると、ルーカスらのニュー・クラシカル(新しい古典派)からの批判を招き、これがマンキューらのニュー・ケインジアンの登場を促すことになった。他方ではヨーロッパを中心として、ケインズの『一般理論』を直接に継承したイギリス・ケンブリッジのロビンソンらの流れを汲むポスト・ケインジアンも傍流として存在している。

参考文献・脚注

  • ^ ひとたび有効需要の原理を受け入れると、消費性向と投資量(貨幣供給量・流動性選好・期待利潤率による)が与えられれば、そこから国民所得と雇用量がマクロ的に決定されることになり、そこでは、完全雇用均衡は、極限的なケースに過ぎないことになる
  • ^ フローのみを考慮した古典派の貨幣数量説に対して、貨幣の価値保蔵(ストック)機能を重視したケインズは、流動性選好説においては資産保有の形態の選択を問題にしている。ケインズによる貨幣数量説の一般化された記述も参照のこと
  • ^ この需要は「未来に関するわれわれ自身の予測と慣習(calculations and conventions)に対する不信の程度を示すバロメーター」であり、「古典派理論が、未来(the future)については我々はほとんど知るところがないという事実を捨象することで、現在(the present)を取り扱おうとする可憐で上品な技術の一種」であるとしてケインズは批判している。 Keynes, The General Theory of Employment(1937)
  • ^ 不完全雇用は、その原因が、貨幣賃金の硬直性に求められることもある。しかし、『一般理論』では、このような主張が古典派に属するものとしてケインズ自身によって退けられている。
  • ^ 早坂忠「ケインズ」(1969)中央公論社
  • ^ 浅野栄一「ケインズ一般理論入門」有斐閣
  • ^ 伊藤光晴「ケインズ」(1962)岩波書店
  • ^ 当時のイギリスで、前者を代表していたのは自由党と労働党で、ケインズは自由党の支持者であった。後者を代表する保守党には生涯与することがなかった
  • ^ Keynes, John M. (1926) The End of Laissez-Faire.
  • ^ ただし活動階級の内部における労働者と企業者の間の対立を問題にすることはなく、企業者と労働者の間の能力の差によるある程度の格差は是認していた
  • ^ ケインズはこれをリカード経済学の一般化と捉えていた(『自由放任からの脱却』)。
  • ^ ケインズ経済学によれば、当時のように生産資源の遊休が発生している場合には、総需要の増加による総需要曲線の右方シフトは産出量の増加を実現させる。実際には1965年には失業率は4.4%に低下し、1964-66年の実質GDPは平均5.5%を達成した。このときのケネディの減税はケインズ経済学の偉大な成果の一つとみなされることが多い(「ステイグリッツマクロ経済学」)
  • ^ このときベトナム戦争拡大による超過需要や、オイルショック後の不況への対応策として取られた拡張的な財政金融政策などの有効需要創出が供給力を上回るほど過剰になっているとの指摘がなされた
  • ^ ヒックスは、彼のIS-LMモデルで、ケインズの体系を、価格の硬直性を仮定した短期での古典派的な一般均衡モデルの一種と見なすことができると主張した。
  • 関連事項

    • ケインジアン
    • ニュー・ケインジアン
    • マクロ経済学
    • ハーベイロード
    • 流動性の罠
    • ニューディール政策
    • 財政政策
    • 混合経済
    • 自由主義
    • 社会自由主義
    変更履歴
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