インフレターゲット(inflationary target)とは
インフレターゲットとは、物価上昇率に対して中央銀行が一定の目標を定めること。インタゲと略称されることもある。通貨量を意図的に増加させて緩やかなインフレーションを起こして、経済の安定的成長を図る政策である。マネーサプライと物価との関係が不安定となったことが導入の背景にある。
目次
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調整インフレ論とインフレターゲット論
1930年代の数年間、スウェーデンで物価水準目標(英語ではprice-level target)が実施され、1990年にニュージーランドが採用するまでインフレターゲットを採用する中央銀行は存在しなかった[1]。インフレターゲットは、物価上昇率に対して一定の目標を定めて金融政策を行おうというもので、1990年のニュージーランドで導入されたのを皮切りに、1990年代イギリス・スウェーデン・カナダ・オーストラリア等でも実施され、つづいてブラジル・チリ・イスラエル・韓国・メキシコ・南アフリカ・フィリピン・タイ・チェコ・ハンガリー・ポーランドなど、現在は20カ国以上で導入されている。先進国で導入されていない国の代表格して、日本と米国があげられる。しかし、米国はインフレターゲットの主唱者であるベン・バーナンキが2006年にFRB(連邦準備制度理事会)議長に就任したことから、近い将来導入されるのではないかとの見方が強い。またユーロ圏における中央銀行的役割を果たす欧州中央銀行(ECB)ではインフレターゲットとは呼ばれないものの「物価安定の定義」として2%のインフレ率が設定されている。
日本における導入推進論
日本についても、1990年代後半の日本における深刻なデフレーションに対して、ことに借り手である企業の負担となるデットデフレーションDebt Deflationの解消をはかる見地から、アメリカの経済学者ポール・クルーグマンによる、中央銀行(ここでは日本銀行)が長期的に通貨量を増加させることによって、名目金利から予想物価上昇率(15年間にわたって年4%ずつ)を差し引いた実質金利をマイナスにするといった提案があった。
予想インフレ率を上昇させれば実質利子が低下したり、通貨が下落して輸出が増えたりするので、投資や消費が増え需要不足が解消される。これに対する批判は、インフレーションを実現する具体的な政策手段がないというものと、インフレスパイラルに陥り物価上昇率をコントロールできなくなるというものがある。しかし、中央銀行がどれだけ多額の債権等を買ってもインフレにならないというのは考えにくく(この点を称して、FRB議長のベン・バーナンキの論を引用して「バーナンキの背理法」なるインターネットスラングが一部のネットコミュニティで話題となった)、実際に有力経済圏(日米は除く)の中央銀行では明示的に物価目標(インフレターゲット)を導入している。アメリカや日本では、インフレ数値目標を具体的に設定する金融政策は採用せず、「物価の安定」を中央銀行の設置目的とし「実質的に」インフレ率を参照しながら行われている[2]。
インフレターゲット政策については、反論として、物価を目標とした金融緩和がむしろ資産価格のインフレーション(バブル景気)を伴う可能性があること[1]、また日本銀行の使命としての「物価の安定」(日銀法第2条)に反しているのではないかとの論がある。これについては物価が継続的に下落するデフレーションを放置することも一方で物価の安定の使命にたがうことであり、国際的な反論がある。むしろ、マクロ経済的な需要を安定的に推移させ、金利による物価調整を機能させるためには1〜3%程度の緩やかなインフレーション目標を具体的に宣言することが必要であると推進派の学者は主張しており、多くの国の中央銀行は物価目標を設定しており、その結果、アメリカ、日本、中国、インド、ロシア、ドイツ、フランス、(イスラエルを除く)中東諸国、(南アフリカを除く)アフリカ諸国、(フィリピン・タイ・インドネシア・韓国を除く)東南アジア諸国、(チリ・ブラジルを除く)南米諸国などを除く有力経済圏においては、物価上昇率の制御及びデフレーションの防止に成功していると主張している。
多くの中央銀行で物価目標を設定する試みが行われているが、設定するインフレ率(例えばイギリスは2.0±1%)や政策目標への拘束力などは様々である。金融政策の透明性向上[3]や予想インフレ率を安定化させることから、日本でも導入を求める声がある。だが、これまでの実施国の多くがインフレ抑制の手段としてこれを用いていることからデフレーション克服に用いることに関して疑問視する意見が存在しており、日銀はこの提案を受け入れていない。日銀は0〜2%の物価上昇率の目安(日銀の認識を示す目安であって、日銀の政策目標としての規律性は持たない。)を設定しているが、インフレ・バイアス(日銀が物価安定の指標として用いるCPI(消費者物価指数)は統計の性格上、1%弱の上方バイアスがかかるとの研究報告がある)まで考慮するならば、ニュージーランド準備銀行が採用しているように1〜3%の幅で目標インフレ率を設定するのが望ましいとの主張がある。
平成のデフレ不況
1990年代に入り、バブル経済が崩壊すると、平成11年頃から日本は先進国では戦後初めて異例のデフレーションに突入した[2]。しかし、日銀を初めとして政府も当初それほど深刻には考えておらずデフレーション克服に本腰を入れることは無かったため、デフレ不況は長期化し、「失われた10年」と呼ばれる経済的不況とあいまって不良債権処理をより困難にした。
ポール・クルーグマンやベン・バーナンキ、岩田規久男ら日米の経済学者たちはこのような日銀・政府の姿勢を強く批判し、リフレ政策によるデフレーション克服を唱えた。その具体的な方策としてリフレ派の経済論者からはインフレターゲットが再三にわたって提案されているが、日銀や一部経済学者の中には反対論が多く、採用に至っていない。
インフレターゲット論の主張する重要な金融政策の一つは国債、市中債券、株式等の引受(公開市場操作の拡張)であり、とくに公正性の観点から日銀の国債引受が有効であるとの主張がなされた。国債の日銀引受は財政法第5条[4]で原則禁止されている一方同条但書きを前提として1年未満の短期国債の引受は1945年から継続的に実施されている。これを長期国債まで適用を拡大させ、財政出動や大幅減税を実施する一方で、その財源としての国債を日銀に引き受けさせる事で実質的に通貨供給を増やすというものである(ヘリコプターマネー論)。
現実にはこれらの政策が採用されることなく、量的緩和政策、および2003年から行われた円安維持のための大幅な非不胎化介入により外国為替市場を経由してベースマネーが増加したため、結果として緩やかながらリフレ的政策となったこともあり長期不況は回復傾向に向かった。
備考
- 熊本学園大学メールマガジン(笹山ゼミ)
- 経済産業研究所(RIETI)「インフレ目標政策への批判に答える」(高橋洋一)
関連項目
- インフレーション
- リフレーション
- マネーサプライ
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